恩人菅さんに唾する東電メディア官僚そして民間事故調(2)
(原発事故に立ち向かう菅さんと怯える当事者達)
2012年3月13日
宇佐美 保
先の拙文≪恩人菅さんに唾する東電メディア官僚そして民間事故調(1)≫の冒頭で、
毎日新聞(2月27日)には、「民間事故調報告」の “菅氏が昨年3月15日に東電に「(福島第1原発からの)撤退なんてありえませんよ」と、第1原発にとどまるように強く求めたことについては、「結果的に東電に強い覚悟を迫った」と評価した。”との一部を紹介しています。
と引用させて頂いた、同じ記事の冒頭は次のように始まっています。
東京電力福島第1原発事故を調査してきた民間の「福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)」(北沢宏一委員長)は27日、菅直人首相(事故発生当時)ら官邸の初動対応を「無用な混乱やストレスにより状況を悪化させるリスクを高めた。場当たり的で、泥縄的な危機管理」と指摘する報告書をまとめた。官邸の指示が事故の拡大防止にほとんど貢献しなかったと総括。緊急事態の際の政府トップによる現場への介入を戒めた。 …… 民間事故調は、科学者や法曹関係者ら6人の有識者が委員を務め、昨年の9月から調査していた。東電側は聴取を拒否した。 |
更に、MSN Japan産経ニュース(2012.2.29)
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120229/stt12022907270002-n1.htm
には、次のようにさえ書かれています。
自民党の谷垣禎一総裁は28日の役員会で、東京電力福島第1原発事故をめぐる菅直人前首相の対応について「人災の様相も出てきた」と批判した。
溝手顕正参院幹事長も同日の記者会見で、福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)報告書に触れ、「後進国だったら裁判にかけ、死刑という話につながりかねない大変な話だ」と述べた。
石原伸晃幹事長は、菅氏らは国会の事故調査委員会(黒川清委員長)で、当時の対応を説明すべきだとの考えを示した。 |
これまで、原発行政を進めてきた自民党の責任はどうなっているのでしょうか?
原発安全神話政策推進こそが人災だったのではありませんか!?
その尻拭いをしている菅さんに自民党はどんな協力をしたのですか!?
それにしても溝手顕正参院幹事長の「後進国だったら裁判にかけ、死刑という話につながりかねない大変な話だ」発言は、後進国(呼称自体が差別的ですが)に対する差別的発言です。
私の見解としたら、恩人たる菅さんにこのような発言をされる溝手氏ご自身が死刑となるというなら理解出来ます。
そして、又、日刊ゲンダイ(Gendai.Net2012年3月2日)は次のように始まっています。
http://gendai.net/articles/view/syakai/135410
「福島原発事故独立検証委員会」――いわゆる民間事故調が先日、400ページもの調査報告書をまとめ、菅前首相らの場当たり対応を断罪した。 「必要なバッテリーの大きさは縦横何メートルだ!」なんて、怒鳴りまくっていた菅のドタバタぶりには呆れたが、…… |
何しろ、このバッテリーの大きさに関しては、上記の報告書をまとめた委員会の長である北沢宏一氏がテレビ画面に“こんな細かい点まで、かかわっていては……”と言ったような非難の声を投げつけていたのですから!
このような非難がなぜ発生するのか不思議で堪りませんでした。
最後の責任は、全て菅さんが負わなくてはならないのです、そして、事態は一刻の猶予もないのです。
一つ間違えばとんでもない事態(東日本の全滅)に陥ります。
そんな時、今まで安全神話を垂れ流し続けた方々が、(事故の後に、謝罪もせず)率先して事故対応に当たれるでしょうか!?
そんなことが出来る方だったら、今までに、原発に対する安全防護策をとっていた筈です。
そこで私は東京新聞(民間事故調報告をよく読むと 2012.3.11)を見ると次のような記述があります。
(以前は、新聞拡販員さんたちへの情に絆されて、朝日新聞、読売新聞を数か月おきに購読していましたが、今は、情を振り払って、東京新聞だけにしています)
……報告書にはバッテリーの大きさなどを質問する首相を見て「同席者の一人は『首相がそんな細かいことを聞くというのは、国としてどうなのかとぞっとした』と述べている」との記述がある。 証言したのは、内閣審議官の下村健一氏。この記述について、細かい事を聞きすぎる菅氏に対し、官邸内でも危機感が出ていた事を示す証言だ、という解釈が支配的だった。 しかし、報告書の公表後、下村氏は自らツイッターで「そんな事まで一国の総理がやらざるを得ないほど、この事態下に地蔵のように動かない居合わせた技術系トップ達の有様に、(中略)ぞっとした」という解釈が真意だと説明している。 結局、事故を過酷化させた責任は当事者の東電に加え、「(東電に)事故の進展を後追いする形で報告を上げさせる、いわば『ご用聞き』以上の役割を果たすことができなかった」 (報告書)とされる保安院など、原発推進官庁の官僚側にあったといえる。「菅叩き」はそうした問題の本質を覆い隠しかねない。…… |
更に、下村氏の貴重な談話が、同じ東京新聞(福島原発事故 たぐり寄せる記憶 2012.3.11)に掲載されていますので、全文引用させて頂きます。
内閣審議官 下村健一さん(51) 全電源喪失と聞いた時に、菅さん(菅直人首相=当時)は官邸の誰よりも早く反応しました。よく分かってたんですね。「これは大変なことだよ」と。以後、この言葉を何度聞いたか。独り言のように言い続けていた。 当時のノートに「なぜ非常用ディーゼルエンジン(発電機)まで止まるんだ」って書いてある。これ、菅さんの発言です。「菅さんに冷却水が必要」。かなりテンションが上がってましたが、あの段階では仕方ないと思います。何も分からなかったから。 とにかく早く電源車をかき集めないといけない。首相執務室にホワイトボードを持ち込んで、秘書官たちが手分けして電話して「インター通過」とか、どんどん書き込んだ。菅さんも携帯電話でどこかに電話して「必要な発電機の重さと大きさはどれぐらいなんだ」と。何で総理にそんなこと聞かせてるんだ…と思った。でも、専門家の人たちに「これってどうなってるの」と聞いても、「はい」って返事はするけど、固まって動かない。 仕方ないから僕が近くに行って「あなたの持ってる携帯電話を左手に持って、右手でボタンを押して相手の人にかけてください」と言うと、動きだした。これ、本当の話。こういうのが頭が真っ白って言うんだと思った。 組織としての備えがないから、電源車の用意さえ官邸が判断を重ねていったんです。 二十一時十四分の電話で、東北電力からの電源車の一台目が着いたと。庶務の女の人が「よかった!」って歓声を上げた。ホッとしました。これで何とかなると思ったんだけど…。 出入りの激しい執務室で、一瞬だけ菅さんと二人きりになった時に「(震災)現場に行くなっていう人が多いんだけど、どう思う」って聞かれた。僕は原発に降りることと気づかず、津波被害の状況把握を頭に置いて「ヘリで上空から見るんだったら、僕は(テレビキャスターだった時に)阪神大震災の初日からヘリでリポートしてたから、横で着目点の助言はできます」と言った。菅さんは「そうか」と。 1号機の爆発は、テレビをつけたらあの映像です。 「爆発しないって言ったじゃないですか!」って、菅さんが斑目さん(斑目春樹・原子力安全委員長)に言ったら、これは映画かって思うくらい頭を抱えて。人生で一番ショックなシーンでした。この人が日本の最高権威なのかと。 専門家は何を聞いても、ふにゃふにゃしか言わない。菅さんから目をそらす。そんな中で唯一、明言していたのが「爆発は起きません」だったんです。 十五日に東電へ乗り込む時は、仮眠中で午前四時台にたたき起こされた。「東電が撤退するって言っているから、今から菅さんと一緒に行って」と。僕は後続の車。着いて二階に上がったら、秘書官が真っ青な顔をして「菅さんが今すごいこと言った」と」あの「撤退した時には、東電は百パ−セントつぶれます」と、いう演説のことを知らされました。 東電で案内された小部屋にはモニター画面があって、六分割されている。本店の非常災害対策室と福島第一原発の対策本部などみんな映ってる。官邸では様子が分からなかったのに 「何だ、こんなのがあるの」って。菅さんは「いいね。じゃあ細野君(細野豪志首相補催官=当時)ずっとここにいて」って言った。 菅さんのけんまくでまわりが言いたいことを言えかったとすれば、本人にも問題がある。ただ、誰が首相でも、あれだけ情報が少なく矢継ぎ早に物事が起きる渦中では、語気が強まるのは当然と思う。 原子力を扱う人間にストレステストを課さなきゃだめです。スペースシャトルの乗組員は、想定外の状況で抜き打ちのトレーニングを受ける。今度何かが起きたとき、今の原子力技術のトップたちはまた何もできないだろう。一年たって強調しておきたいのは、「人間」の問題は何も解決していないという事です。 |
ところが、冒頭に引用しました毎日新聞( 2月27日)には次のような記述を見るのです。
また、菅氏の官邸での指揮に関し「強く自身の意見を主張する傾向」が斑目(まだらめ)春樹原子力安全委員長や閣僚らの反論を「躊躇(ちゅうちょ)」させたとの認識も示した。さらに「トップリーダーの強い自己主張は、物事を決断し実行するための効果という正の面、関係者を萎縮させるなど心理的抑制効果という負の面があった」と言及した。 |
この調査報告には、こんな指摘をする前に、先の下村氏の“原子力を扱う人間にストレステストを課さなきゃだめです”を真っ先に盛り込むべきです。
調査委員会が弁護する関係者には、自分たちが築き上げてきた「原発安全神話が崩壊している惨状」と、菅さんの逆鱗とのどちらに委縮していたのでしょうか?
「菅さんの逆鱗」に委縮するくらいな方々が、「原発安全神話崩壊」に適切に対応できますか!? |
出来るわけないではありませんか!?
出来るのはせいぜい「自己弁護」、尻馬に乗っての「菅叩き」ではありませんか?!
もう一度、先に引用させて頂いた日刊ゲンダイ(Gendai.Net2012年3月2日)は次のように締めています。
http://gendai.net/articles/view/syakai/135410
そうなると、「この民間事故調って何だ?」と言いたくなるのだ。仕切った独立系シンクタンクは元朝日新聞主筆の船橋洋一氏が理事長。船橋氏は28日の会見でも真っ先に挨拶をした。委員長は北沢宏一・前科学技術振興機構理事長。そのほか、遠藤哲也・元国際原子力機関理事会議長、野中郁次郎一橋大名誉教授らが並ぶ。「高い専門知識と見識があるメンバー」と自画自賛しているが、だからといって、なぜ、彼らが調査するのかが分からない。菅の対応をボロクソ批判していたが、その一方で、東電に乗り込んだことは褒めていて、菅は「公平に評価していただいたことは大変ありがたい」とか言っていた。日米同盟の役割にもスポットを当てていて、日米防衛当局のラインが「最後の砦」になったと褒めていた。 「ウサンくさいにおいがプンプンしますね。彼らにはどういう権利があって、なぜ、調査・検証に乗り出したのか。それがよく分からないからです。船橋洋一氏といえば、親米保守。米軍のトモダチ作戦礼賛が目的だったのではないか。緊急出版の話を聞くと、ますます怪しげだと思います」(元外交官・天木直人氏) この事故調の委員長を務めた北沢宏一氏が、今春にも発足する原子力規制庁の初代長官になるんじゃないか、というウワサも根強くある。だとしたら、この報告書はそのためのデモンストレーションということになる。 |
こうなると、
調査には、ストレステストではなく、バイアステストが必要です。 |
調査委員会自体に何らかのバイアスがかかっていれば、先の下村氏の発言をとんでもない解釈に結び付ける結果になり、調査ではなくバイアス目的達成事業となってしまいます。
更に、沖縄タイムズ(2012年3月1日)から抜粋させて頂きます。
http://www.okinawatimes.co.jp/article/2012-03-01_30449/
…… 「安全神話」だけが一人歩きし、政府も東電も過酷事故への備えを欠いた。専門家集団が専門家としての機能を果たせなかった。問題は根深い。 民間事故調は、政府や国会に設置された事故調とは独立した立場から、互いに補い合う調査を目的に発足した。東電が、「事故収束が第一」との理由で、ヒアリングに非協力的な態度を取ったのは理解に苦しむ。 事故の背景には、二つの「原子力ムラ」の存在があった、と民間事故調の報告書は指摘する。 原子力行政・原子力産業による「中央の原子力ムラ」と、原発の立地地域という「地方の原子力ムラ」。中央では財界、政界、マスメディア、学術界を巻き込み強固な体制をつくり、地方では安定的な雇用や自治体への交付金などに支えられ、それぞれ安全神話を形成してきた、という。 ならば、その構造自体を変えなければならない。ムラがそのまま残り、「事故原因の徹底究明などを省略して、停止している原発の再稼働を進めよう」とするのはもってのほかだ。 政府の事故調が都内で開いた国際会議で、米原子力規制委員会(NRC)のメザーブ元委員長は、日本の原子力規制や政策決定に「透明性、公開性が必要だ」と述べた。他の専門家も「過去の事故の反省を生かせていなかった」と指摘した。 事故当初の政府や東電の混乱に対しては、国際社会も厳しい目を向けている。それぞれの事故調の検証結果を、新設予定の「原子力規制庁」の体制をはじめ今後の危機対応に生かしてもらいたい。 |
今回の件は、又、次の拙文≪恩人菅さんに唾する東電メディア官僚そして民間事故調(3)≫に続けさせて頂きたく存じます。
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